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金沢工業大学

平成29年度私立大学研究ブランディング事業選定

これからの科学技術者倫理研究 ~社会が必要とする課題への取り組み~

事業内容

About the Project

(1)事業目的

高度科学技術社会において、科学技術者の判断や行動は社会に多大な影響を与える。「人間形成」「技術革新」「産学協同」を建学綱領に掲げる本学では、早くからそのような認識を持ち、1990年代中頃から、PBL型の工学設計(現 プロジェクトデザイン)教育を推進してきた。さらに、科学技術応用倫理研究所を1997年に開設、我が国における科学技術者倫理に関する教育?研究を先導し、倫理的に適切に判断し行動する能力を有する科学技術者の育成に資する科学技術者教育プログラムの拡充に力を入れてきた。

しかしながら、昨今の社会情勢を考慮すると、本学の科学技術者倫理教育プログラムには更なる拡充が求められている。具体的には、社会のグローバル化に伴って企業の開発?生産拠点の海外展開が進んだことで、価値観や社会における科学技術者の役割や意思決定のあり方が、国や文化圏によって異なることへの理解不足が深刻な問題を引き起すようになっているが、このことを十分に踏まえる必要がある。更に、企業において経営側の倫理的認識不足が現場技術者の倫理判断を鈍らせ、結果として社会問題となる様な事例が散見されるが、このことは科学技術者倫理教育に経営倫理の観点を組み込む必要性を示している。

これまで、本学では教育の主柱であるPBL型教育プログラム「プロジェクトデザイン」など専門としての工学教育と科学技術者倫理教育の融合が図られてきたが、これを新たな「デザイン思考」にも拡げ継続して研究に取り組む。

また、AIやビッグデータ活用、自動運転技術、バイオテクノロジーなど、科学技術に関する多くの分野でイノベーションが相次ぐ今日においてこそ、科学技術者が科学技術の源流?本質を理解していることが、新たに誕生する科学技術がもたらす可能性のある倫理的課題を予見、理解し判断するうえで求められる。本事業では、上述の課題に対応して、科学技術者倫理に関連する以下の研究課題を、科学技術応用倫理研究所が中心となり学内外と連携して研究を実施する。

  • グローバル社会における科学技術者倫理に関する研究
  • 経営倫理と技術者倫理の統合に関する研究
  • 工学教育での科学技術者倫理教育に関する研究
  • 科学史/技術史に基づく科学技術者倫理教育に関する研究

「人間形成」「技術革新」「産学協同」を建学綱領とし、将来ビジョンにおいては、社会が必要とする教育、研究、サービスの継続的な改善活動に努めると共に、その卓越性を追求し、社会に貢献する事を掲げきた本学は、これらを実現するうえで科学技術者倫理を教育研究の血脈ととらえ、公衆の安全?健康?福利を最重要視する倫理観に基づいて判断し行動できる能力を育成する、科学技術者倫理教育プログラムの拡充に力を入れてきた。

本事業では、地域に根差し世界に開かれた大学として、社会が必要とする科学技術者倫理研究に先導的に取組む大学、実社会に結びついた工学教育と合わせて科学技術者倫理教育の研究を実践する大学、と言う研究ブランドの確立を目指す。また、幅広いステイクホルダーへ、このブランドを訴求?浸透させる事で、将来ビジョンで目指す「教育付加価値日本一」、「共同と共創による技術革新と産学協同の実現」を具体化した、実学的教育と社会への貢献を進める大学としてのブランドイメージ戦略を進めるものである。

(2)期待される研究成果

社会的要請に対する研究テーマ

1グローバル社会における科学技術者倫理に関する研究

社会のグローバル化進展とともに技術者が負うべき社会的責任の範囲は急速に拡大し、組織の中における技術者の役割や意思決定のあり方が国や文化圏によって異なることが、深刻な問題を引き起こすようになっている。日本のモノづくりの信頼性や品質は世界的に評価されているが、それを支えている柱の一つが技術者倫理教育であることは論を待たない。にもかかわらず、国際的な視野を持つ、特に、東南アジア諸国の価値観や考え方を踏まえた科学技術者倫理教育?研究が十分に行われているとは言い難い。

2経営倫理と技術者倫理の統合に関する研究

技術者倫理にとって、経営倫理は車の両輪である。技術者の多くは組織のプロフェッショナルメンバーとして能力を発揮する場合が多い。しかし、自動車の燃費改ざん事例など、専門職としての倫理観がその義務を果す時に経営倫理が、その履行の方向性を決める鍵を握る。双方が異なる価値観を持つ状況下では技術者の倫理は、経営者の倫理によって抑圧され、誤った方向性へ進むこととなる。
このような事態を回避する為には、経営者と技術者が同じ価値観を共有できる組織風土を経営者、技術者双方の協働によって涵養する必要がある。当研究ではこれまでの研究成果をベースに、その涵養の為、企業との研究会を立ち上げ、北陸地域経済界においてその具現化?実際化をめざす。
具体的には、経営倫理定着浸透の為に必要な「倫理綱領の制定」、「教育研修の実施」、「浸透定着の測定」を確立する。当研究活動は、次の専門組織との協働で進める。本学科学技術応用倫理研究所の研究成果、海外大学?研究機関との協働は言うまでもなく、我が国最初の経営倫理専門実践研究機関である経営倫理実践研究センター、そして我が国唯一の経営倫理専門学会である日本経営倫理学会の協力を得ながら、以下の活動研究会やセミナーを北陸の企業などに対して開催する。

  • 企業倫理綱領と研究開発倫理綱領の制定及び両綱領間の共通価値の抽出と明文化
  • 組織において抽出された共通の価値の共有化を図る研修方法
  • 組織における共通の価値観の浸透定着測定評価

ここでの研究成果は、北陸地域企業に対して倫理に対する取組みの促進と浸透を働きかけ、地元企業の経営力強化に繋げたいと言う事と、将来ビジョンにもある産学協同を進める機会となる事を目指している。
また、この様な活動を地元から全国へ発信する事で、大学の倫理に対する取組み、先導的活動を発信し大学イメージ戦略の一つとして浸透する事を目的としている。

技術者教育に関する研究テーマ

3工学教育での科学技術者倫理教育に関する研究

本学ではプロジェクトデザインなど専門としての工学教育と科学技術者倫理教育の融合が従来から図られてきた。たとえば、専門科目にほんの少し倫理的要素を取り入れること(マイクロインサーション)によって、カリキュラム全体を通して倫理教育を実践すること(Ethics Across the Curriculum:EAC)が全学的に実施されてきた。ただし、これを有効に実行するための方法やその効果の測定方法については継続的に検討する必要があり、(1)効果的なマイクロインサーションの方法の考察、(2)EACの効果の測定方法の考察が今後の研究課題となる。
また、近年、プロジェクトデザインと関連して「デザイン思考」が注目を集めている。このユーザーを中心としたデザイン思考は、公衆(ユーザー)の安全?健康?福利を優先して考える科学技術者倫理と類似性を見出すこともでき、(3)デザイン思考という点から科学技術者倫理をとらえなおして、その思考を工学教育に導入することを検討することも今後の研究課題となる。
ここでの研究成果は、本学教育の主柱であるプロジェクトデザイン教育を始めとした工学教育と科学技術者倫理教育の融合が図られる事で、より実社会と結びついた実践教育を行っていると、言う事をステイクホルダーへアピールできる事である。

4科学史?技術史に基づく科学技術者倫理教育に関する研究

科学技術者倫理の不正問題の多くでは、そもそも科学や技術とは何か、そこでは何が重視されるべきか、といった専門職としての科学技術に対する本質的理解の不足が大きな原因の一つとなっている。また、科学技術者倫理の日本での導入と展開は、グローバル化や科学技術の高度化などにともなう社会的要請として1990年代後半から進められるようになった。これらの歴史的理解が不十分だと、科学技術者倫理教育が個人的な信念や時代思潮に合わせた恣意的な理念に基づきがちになり、もっともらしい教育が行われても現実社会に対する実効性は不十分になりかねない。このような問題意識に基づいて、本研究所ではこれまで科学技術者倫理に関するさまざまな歴史分析を進め、この分野の存立に影響を及ぼしている様々な要因を明らかにしてきた。本学が所蔵するアーカイブコレクション「工学の曙文庫」には、科学技術史上重要となる原典初版本が集められており、建築アーカイヴス研究所には、近代建築に関するアーカイブ資料が保管されている。これら資料から科学技術の本質を理解し、歴史的倫理観の変遷を学ぶ事は、科学技術者として必要な事だと考えている。
ここでの研究成果は、特定分野での研究成果の学会発表や書籍化と、本学アーカイブ資料から学べる科学技術者倫理に関する教材とSTEM教材を開発することとなる。