マクスウェルは希に見る多方面の天才で、きわめて若い時期に、すでに土星の環、熱力学、気体運動論、色の理論など科学の種々の分野にわたる重要な問題を研究していました。しかも、それらの成果のすべてが独創的であり、それぞれの学問分野の基礎となっている点で現在なお驚異とされています。これらマスクウェルの偉大の業績のうちでも最も大きなものはファラデーの電磁気論の拡張でした。ファラデーは科学史上最高の実験家であり、直観力にすぐれた人だったのですが、その理論を数学的に表現する能力には少々欠けるところがあったのです。ファラデーの電磁誘導に関する理論を数学記号を用いて定式化し、発展させるのに成功し、将来の発展への基礎を与えたのはマスクウェルその人だったのです。
この研究に先立つ二つの研究論文において、マスクウェルは力線の理論の研究をし、それを式で示すことを試みていました。初めは水力学の類推を用い、磁力線も流体の流れのような線 (流線) と同じであると考え、これを数学的に定式化しようとしたのです。しかし、電磁誘導の現象はこの類推をもっては説明できないことがやがてわかったのです。そこでマクスウェルは新しい考えを出し、それによって磁気の渦流的性質と磁気の強度の変動に対応して電流が生じることを説明することができました。つまり、磁力線は中心軸にそって渦巻運動をし、ねじの様に進んでいく回転小円筒のようなものと仮定し、マスクウェルはこれらの円筒と円筒の間には非常に細い球状粒子がつまっていて、これが円筒を回転させるものと考えました。そうしてこの渦の軸に対して直角方向に向う粒子の運動が電流であるとしたのです。このきわめて精緻な機構的類推は、複雑でぎこちないシステムではありましたが、電磁誘導を完全に説明していたのでした。 本書において、マクスウェルは上記のモデルをハミルトンのベクトル解析法を用いて、極めて巧妙な数式にしています。いわゆる「場」の概念に基ずいたマクスウェルの関係式と呼ばれる幾つかの四次元方程式を導いたのです。
このように純粋に数学的に帰納したことによって、マクスウェルは必然的に、電磁波の存在を当然の論理的結果として予測するようになりました。彼はまたこれらの電磁波が伝播する速度が光の速度に等しい事を証明し、光は電磁波であるという基本原理を明らかにしたのでした。このようにマクスウエルは電磁学の包括的な理論を確立したのであり、この理論は後にアインシュタインの研究に確固たる基礎となったのでした。
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