金沢工業大学
教育DXシンポジウム2022 活動報告
時間と場所の制約を超えた学びの場の創出
金沢工業大学 教育DX推進委員会 遠隔授業推進小委員会
委員長?学長補佐 教授 鈴木 亮一
教育の質の向上に3つの目標からアプローチ
「取組2」の成果報告をさせていただきます、鈴木でございます。「取組2」は、「時間と場所の制約を超えた学びの場を創出する」ことを目的に、デジタル技術を活用した質の高い教育を提供することを試みました。
推進体制としては3つのワーキンググループを置くと共に、教材開発支援センターと連携しながら新しいデジタルコンテンツの制作、それを活用したシステムの運用をめざしました。
こちらは(図1)取り組みの概要、全体図です。本日はこの中でも、当初掲げた目標に対して期待したこと、成果についてご報告します。
図1
取り組みの目標は、次の3つです。
- 対面と遠隔授業が最適に融合する教育方法と教育環境を追求して、教育効果の高いデジタル教材やシステムを制作し授業に活用していく
- 遠隔コミュニケーションツールを活用した授業、さらには実空間、仮想空間を融合した環境において実験や演習科目、PBL(Project Based Learning)科目を実施することによって学生の学習意欲と満足度の向上をめざす
- 産学連携プラットフォーム、私大等プラットフォーム等との連携により、プラットフォームをつくりながら分野融合型の教育を推進し新しい教育環境を創出する
当初、期待した成果は、
- ポストコロナ時代における、対面と遠隔の授業双方を運用しているような場合のメリットをいかした教育環境が構築され、教育効果の高い授業運営ができる
- 対面授業と同等の臨場感ある学習環境の中で、積極的なコミュニケーションが生まれ、学ぶ意欲が従来の対面型の授業よりも向上する
- DXによってさまざま空間がつながることで、専門分野が異なる学生、世代が異なる社会人、さらには海外にいる学生や研究者などと多様性あるチームをつくり、問題発見や解決策を考えるような経験ができる
ということでしたが、概ねこれらの基盤となる技術は構築できたと思っています。
機器や設備を拡充し対面と遠隔授業を融合
目標1に対しては、対面と遠隔授業が最適に融合する教育方法と教育環境を追求し、教育効果の高いデジタル教材やシステム制作し授業に積極的に活用しました。オンライン教育、eラーニング、オンデマンドを含めてどのようなコンテンツをつくるべきなのかを検討したほか、私共はものづくりをする夢考房という場所を持っていますので、そこにおける安全教育、仮想空間の中でしかできないような危険な体験をするというようなコンテンツづくりもめざしました。
これらを実現するために導入したデジタル機器はこちら(図2)の通りです。
図2
等身大の接続システム、スムーススペースをはじめ、ヘッドマウントディスプレイはVR、MR合わせて160台を揃えました。石川県内の大学にも貸与しながら一緒に教育を行うということもしています。そのほか、360度撮影カメラや3Dプリンター等も導入しています。
さらには、講義室と演習室を改修しデジタル化しました。対面と遠隔の授業がハイレックスでできる講義室には、授業中、教員が演台の上で動くと自動でカメラが追尾したり、黒板の文字を手前に写し出させるような設備を備えました。後方には大型のディスプレイとカメラを設置して授業を録画し、オンデマンド授業としても配信できるシステムです。
演習室は、デスク上にモニターとカメラが設置されており、離れたメンバーとアイデアを共有しながらディスカッションができるスペースです。それぞれのプロジェクトの進捗をSA?TAがタブレットで情報共有しながら授業を進めることも行っています。
本当にいろいろな学部?学科の中で数々の成果が上がってきています。例えば建築におけるモデルに対するディスカッション、メタバース空間での作品発表や相互評価、バーチャルファッションショーの開催、オンライン授業用の実験シミュレーション、360度撮影カメラを使って文化財を保存しそれを教育に活用するといったことが実現しています。
こちら(図3)は、実験演習科目への応用例の一つで、機械分野の振動工学の実験の様子です。従来の実験をしている学生たちと一緒の空間の中で、仮想空間の中でVRヘッドマウントディスプレイをつけて実験をしています。VRあるいはDXを活用してデジタル機器を導入していくと、一つの実験の中でも現象を繰り返し観察できたり、レポートを作成する際にも実験ができたり、自分で立てた仮説を検証して再実験できたり、あるいは一人ひとり実験装置をつくって実験できたりなど、さまざまなメリットがあります。
図3
VRを導入した成果ではないのかもしれませんが、学生たちの学習意欲が向上したのか研究室でのオフィスアワーに来る学生の数が増えたり、最終レポートの質が向上するといった効果も見られました。
こちら(図4)は、2021年度と2022年度の成績の比較です。濃い青色が90点以上、青色が80点以上、水色が70点以上で黄色が60点以上です。60点以上70点の層が減少して、90点~100点の層が増加するという傾向が見られました。デジタル機器を導入することによって上位層から下位層の学生まで、ある一定のレベルで教育効果が上がったのではないかと我々は考えており、今後も継続的に評価をしていきたいと思っています。
図4
DXを活用した学習支援で学びへの意欲を引き出す
次に目標2についてですが、遠隔コミュニケーションツールを活用した授業、実仮想空間を融合した環境での実験?演習科目の実施にして学習意欲と満足度の向上をめざしました。
単に実験や演習を行うのではなく、実空間と仮想空間を融合したような新しい教育環境をつくりたいと、等身大の遠隔接続システム、VR、AR等を活用して大学間?企業との連携を進め、臨場感ある環境で質の高い共創環境を実現しました。実際に海外や企業と結びながらディスカッション等々ができています。
遠隔と対面とアバターを組み合わせた異分野共同の連携事業も実現しています。大学を超えてグループで活動しながら問題を解決することもできています。
その他にも課外活動を支援するサイバー空間も構築しました。oViceというソフトウエアを活用しているのですが、仮想空間の中にはプロジェクト教育センター、基礎英語の教育センター、数理工教育センターなどがあり、例えば基礎英語教育センターではメタバース空間で5分間の英会話セッションを行っています。ある先生は、オフィスアワーを仮想空間の中で実現しています。学生同士が自然と教え合ったり、教員からはこの空間の中に来ないと見られないような資料や補助教材の提供があったりと、従来の対面授業と組み合わせたオフィスアワーをすることによって利用者が増加したという結果が出ており、教育効果も表れていると思っています。
研究面においては、卒業研究や修士研究などでも人材育成を目的にVR?ARを活用した授業を積極的に行っています。例えばVRチェアスキーシミュレータを障がい者スポーツを普及するためにつくったり、それを実際に障がいを持つ方々に実際に使ってもらって社会実装したり。健康?介護予防などの足腰を鍛えるシステムとしてパーキンソン病友の会の方々へ提供しながらものづくりをしたり、VR?MRを活用した遠隔農業支援システムを構築したりもしています。
これらを実際に行ってよかったと感じるのは、単にデジタル機器を使える、ソフトウエアが使えるという技術の習得をめざすのではなく、目標をもう少し先に設定することで学生に自主的な学び、知識とスキルの獲得と行動が生まれることがわかったことです。実際、ロボティクス学科の授業では、ユニティとかブレンダーといわれるようなソフトウエアの使い方を教える授業はまったくないのですが、人々に貢献したいという思いから学生たちが積極的にそのソフトウエアを身につけていく姿も見られました。社会実装という一歩先の目標を持たせることで学生たちの自主的な学びが生まれてきたのです。
共同PBL授業を推進し新たな学びの場をつくる
最後に目標3は、産学連携プラットフォームを活用しながら新しい教育環境を創出しようということで、デジタル技術を活用して大学の機能を有機的に結合しながら個々の大学の特徴をいかして連携し、大学の価値を高めるという取り組みです。石川県には私立大学等が13校ありますので、これに自治体、産業界がアライアンスを組んでいくことによって他にはない魅力ある学びの場が生まれます。
石川県内の私立大学が学問分野を超えて連携し教育を実践すること、そして多様性ある学びの場を創出してスマートキャンパスを実現すること、相互に授業運用や単位認定を実施することによって、学都金沢のブランドが確立して質の高い特色のある教育が実現できると思っています。
実際にメタバース等のさまざまな機器を活用して大学間を超えてPBL、問題発見、問題解決という教育が実際にできていますし、その他にもDXの共同利用センターが中心となり、他大学にデジタル機器を貸し出しながら共同研究が行われていたり、社会貢献活動ができていたりしています。例えば、金沢医科大学との連携プロジェクトでは、遠隔で超音波検査の手法を学べるシステムの開発、金城大学とは作業療法学におけるデジタル技術の活用がこの私大等プラットフォームを通して実現しています。
以上が「取組2」の成果報告です。オンライン上にいろいろな成果が掲載されていますのでぜひご覧いただければと思います。
ご静聴ありがとうございました。