記事詳細
「金沢工業大学本館」(現?金沢工業大学1号館)が「日本におけるモダン?ムーブメントの建築226選」に選定。独自な空間造形に高い文化的価値と歴史的意義
「金沢工業大学本館」(現?金沢工業大学1号館)が「日本におけるモダン?ムーブメントの建築226選」に選ばれました。これはモダン?ムーブメント(近代運動)の推進に寄与した建築の歴史的?文化的重要性を訴え、その記録と現存建物の保存に関する活動を展開する国際的な学術組織DOCOMOMO(The Documentation and Conservation of buildings, sites and neighborhoods of the Modern Movement)の日本支部 DOCOMOMO Japanが一般社団法人日本建築学会の協力を得て取りまとめたものです。
「モダン?ムーブメント」は20世紀の建築の主要な潮流のひとつで、18世紀から19世紀に端を発する合理的、社会改革的な思想や技術革新を背景に、1920年代から1930年代に西欧で明確な形をとりはじめ、線や面の構成による美学にもとづいた建築を多数生み出してきました。日本においてもその影響を受けた建築が建設され、現存している建物は日本の近代化の足跡を物語るうえで重要な文化的遺産と考えられています。
DOCOMOMO Japanでは 以下の基準にもとづいて「日本におけるモダン?ムーブメントの建築」を選定しています。
a.装飾を用いるのではなく、線や面の構成による美学が適用されている。
b.技術の成果がデザインに反映されている。
c.社会改革的思想が見られる。
d.環境形成(広場や建築群の構成)という観点でデザインされている。
「金沢工業大学本館」(現?金沢工業大学1号館)は扇が丘キャンパス北校地で1969年に竣工しました。設計者は大谷幸夫。代表作としては金沢工業大学北校地のほか、国立京都国際会館や沖縄コンベンションセンターなどがあり、広島平和記念資料館も丹下健三計画研究室時代に設計を担当した作品です。ライブラリーセンターが完成した1982年、金沢工業大学扇が丘キャンパス北校地全体が日本建築学会作品賞を受賞しています。
「金沢工業大学本館」に対するDOCOMOMO Japanの評価は以下のとおりです。
(DOCOMOMO「2018年度選定建築物 記録?評価書」より引用)
1)技術性
建物中央のラウンジ部分に大きな吹き抜けを設けながら、雪の多い気候風土に対応するべく、階段教室の形状に合せたシンボル的な屋根の造形を持ち込み、各所からの採光を確保する高窓を取ることによって、光の降り注ぐ明快でダイナミックな空間構成でまとめられている。構造体を高い精度のコンクリート打放しで露出させ、施工技術の上でも極めて高い質を実現している。
2)社会性
共に学び交流する象徴的な空間を創造することによって、大学の教育の場に対する優れた建築的な提案を行っている。
3)文化?審美性
9千平方メートル近くの規模の大きな一棟の校舎であるが、大教室と研究室、製図室や実験室、会議室や事務室など、それぞれの要素を的確なスケールで表現しつつ、吹き抜けのラウンジが全体を統合する極めて構成的で明快な空間づくりが徹底されている。しかも構造体を打放しコンクリートで露出させ、さまざまな高窓から自然光を取り入れることによって、光と影のコントラストの美しい清新な象徴性を創り出すことにも成功している。
4)歴史的背景
大学の開学の記念碑的な象徴として計画され、高い信頼を得た設計者が依頼者とのやり取りを通して、大学の教育の場にふさわしい空間造形を純粋な形で追及した点において、歴史的な意味も大きい。
5)総合評価
設計者の大谷幸夫が後に記しているように、日本の民家や町並が持つ骨太く力強い存在としての建築を求めたことによって、ここで学ぶ学生たちと教職員を大らかに包み込みながら、光と影を映し出す素材感とディテールの追求によって、微妙な情感にも応答する繊細さも備えている。すでに100選に選定した国立京都国際会館の方法を引き継ぎながら発展させた独自な空間造形として、高く評価できる建築である。