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【ニュースまとめ】同様の課題を有する国内外の地域にも応用可能。「再生可能エネルギーの地産地消」「災害に強靭な社会」「農業イノベーション」をキーワードに地方創生を目指す。白山麓キャンパスを拠点とした社会実装研究

白山麓キャンパスは実証実験キャンパスとして開設された

金沢工業大学では地方創生研究所(所長 大澤敏学長)が白山麓キャンパスを拠点に多彩な研究プロジェクトに取り組んでいます。白山麓における社会的課題の解決は、同様の課題を有する国内外の地域にも応用が可能です。「再生可能エネルギーの地産地消」、「災害に強靭な社会」、「農業イノベーション」に関する社会実装研究を産学官の連携により進め、国連SDGsの達成に貢献します。

再生可能エネルギーの地産地消で
災害に強靭な社会を目指す

国連 SDGsでは再生可能エネルギーの利用拡大とともに、自然災害に対する強靭な社会の実現も大きな目標として掲げられています。日本は世界有数の災害大国として知られ、平成30年に北海道胆振東部地震で起きた大規模なブラックアウトや、令和元年の台風による千葉県内の停電被害に象徴されるように、自然災害に対する脆弱さが喫緊の課題となっています。

地方創生研究所はICTやIoT、AIやデータサイエンス、ロボット技術、エネルギーマネジメントといった先端技術を活用した地方創生に取り組んでいます。学長自らが所長を務める全学横断型の研究プロジェクトが特徴で、実証実験キャンパスとして平成30年4月に開設された白山麓キャンパスを拠点に研究成果の社会実装を目指しています。

"電気と熱の地産地消を目指すエネルギーマネジメントプロジェクト"では、キャンパス内のコテージで、電気と熱によるエネルギー地産地消型直流(DC)マイクログリッドの実証実験に取り組んでいます。

キャンパス内のコテージで小エリア直流(DC)配電網の実証実験を進めている

太陽光発電などの再生可能エネルギーは直流(DC)で発電され、バッテリーも直流(DC)で蓄電します。また再生可能エネルギーはその特性から広域ではなく小エリアでの地産地消に向いています。白山麓キャンパスでは、太陽光発電や地元産木材チップを燃焼させるバイオマスボイラーによる発電とその廃熱を使った熱電発電、小型風力発電による直流電力をミックスした小エリア直流(DC)配電網を構築。コテージ間を直流(DC)と温水配管により接続して、再生可能エネルギーのベストミックスを探りながらエネルギーを地産地消する実証実験を進めています。

コテージ直流(DC)マイクログリッド制御装置

これまで交流商用電源系統が停電した際も一瞬の停電もなく瞬時に電力自立供給に移行できることが実証されていて、エネルギーレジリエンス(災害に強靭なエネルギー供給網)を実現するものとして注目されています。またコテージ内の暖房はバイオマス発電により生じた温水暖房器を使うため、電気ばかりでなく熱の地産地消も実現しています。

地元産木材チップを燃焼させるバイオマス発電はカーボンニュートラルな再生可能エネルギーであるとともに地元林業の活性化にもつながります。エネルギーの地産地消は地方創生に貢献するものとして大きな期待が寄せられています。

バイオマス発電装置。地元産の木材チップを使用

廃熱を使った熱電発電装置と温水配管。温水はコテージやいちご圃場の暖房に使われる

エネルギーレジリエンスとしてもう一つ特筆すべきことは、EVや電動自転車を仮想配電網として使う実証実験を進めていることにあります。

災害等で他地域の配電網に障害が生じた場合でも、EVで電気を運べます。また道路が寸断され、EVでは行けない場所には電動自転車で電気を運びます。開発された電動自転車は走行しながら発電ができ、カートリッジ式蓄電池に電気が貯められます。またパンクしないよう、チューブレスタイヤを採用しています。行った先でもその場で発電ができるため、まさに災害に強靭なエネルギーインフラを目指した、これからますます必要となる実践的な研究と言えます。

仮想配電網として使用されるEV

走行しながら発電、カートリッジ式蓄電池で電気を運べる

5Gなど最新技術を活用して
新しい農業を産学連携で創出

超高齢化社会に入り、様々な産業において人手不足が深刻な課題となっています。第一次産業である農業においても、農業従事者の高齢化と農業就業人口の減少が進み、労働負荷軽減と新規就農者の確保は喫緊の課題となっています。金沢工業大学では令和元年10月に白山麓キャンパス内に研究用いちご圃場を設置し、高品質ないちごの生産に向けた新たな実証研究を産学連携にて開始し、こうした課題解決に向けた実証実験を進めています。

白山麓キャンパス内に設置された研究用いちご圃場

当圃場は、二酸化炭素や照度、温度、水分に関する情報をセンサーで取得し、遮蔽カーテンの開閉や空調、肥水の供給なども全自動で行われます。また白山麓キャンパスは北陸で初めて令和元年9月に5G基地局が設置されたエリアの一つであるため、5Gを活用した研究も進めています。

従来の通信技術ではハチなどの花粉交配用昆虫の動きを高解像度の画像でリアルタイムに捉えることは困難でした。これに対して高速?大容量、低遅延を特徴とする5Gは俊敏に飛行する小さなハチを十分に捉えることが可能です。圃場内に高解像度の360度カメラを設置し、熟練者が離れたところからヘッドマウントディスプレイを通じてハチの動きや葉の葉脈をはじめ、映像から感じる空気感までもリアルタイムで感じることができるため、これまで「現場に毎日行かないと状況が分からない」農業従事者の負担軽減につながります。

また5Gを活用した熟練者による的確な遠隔指導により、非熟練者が熟練者と同等に高品質ないちごの生育が行えるアシストシステムの構築も目指しています。熟練者の経験を5Gを通じてデジタルデータとして蓄積することで、将来的にはAIによる農作業支援ロボットの実現も可能になります。

高解像度の360度カメラ

圃場内のハチ

さらに当圃場では、郊外や山間部など5Gの基地局が整備されていないエリア対策として、4G等の通信インフラを活用した「カメラ撮影の画質を向上させる画像処理技術の開発による、農作業の遠隔指導の実現」に向けた研究も、いしかわ農業総合支援機構(INATO)農林水産業基幹技術開発トライアル事業の採択を受けて産学共同で実施しています。通常のハイビジョン程度のカメラで撮影したデータからメリハリのある画像にするソフトウェアを開発。熟練者は圃場に設置された360度カメラから送られてきた画像を自宅に居ながら確認し、茎ごとの適正個数の実や奇形の実の間引き等を指示すると、圃場にいる非熟練作業者が装着したゴーグル型MR(Mixed Reality)提示装置にどの実を取るかといった指示が、実映像に重ねて表示されるもので、非熟練作業者でも高品質ないちご生産を可能にします。また当システムでは熟練者、非熟練作業者は各自のペースで作業がでるため、働き方改革にもつながります。

大気からCO2を濃縮生成
温室効果ガスフリーいちご栽培も可能

当ハウス圃場はエネルギー効率に優れた「木造ハウス」で作られています。またハウスにはキャンパス内のバイオマス発電装置から出た熱を利用した温水が引き込まれ、発電で生じる熱エネルギーを再利用する形で、カーボンニュートラルな熱エネルギーとして冬季の暖房に生かされています。いちご栽培では、光合成を促進するために、冬から春にかけてハウス内へ二酸化炭素(CO2)の充填が必要となり、一般的には化石燃料を燃焼させてCO2 を発生させていますが、温室効果ガスの要因になり、燃料費もかさみます。そこでハウスには大気からCO2を濃縮生成する装置も導入し、名実ともに「温室効果ガスフリーいちご」の栽培が可能となります。

カーボンニュートラルな熱エネルギーを暖房に生かすほか、光合成を促進させるCO2も大気から濃縮生成できる

温室効果ガスフリーいちご栽培も可能

農業用水という未利用なエネルギーの地産地消で
農業の電動化が可能 "ナノ水力発電システム"を共同開発

農業分野では農作業の負担軽減策として農機具の電動化や自動化、さらにはドローンを使った農薬散布の開発等進められていますが、電動化には連続稼働時間や充電時間の問題があり、給電設備の設置も必要です。金沢工業大学では農業用水を活用した"ナノ水力発電システム"の研究開発も企業と共同で進めています。近年普及しつつある小水力発電装置(マイクロ水力発電装置)よりも小型であるため、山間の用水路のような、従来の小水力発電装置では設置しにくかった箇所でも容易に設置可能です。農業用水から直径125mmのパイプで取水し、装置中央にある直径100mmのデュアルタービンを回転させることで両端につけられた発電機で発電するもので、発電量は一般家庭2世帯分に相当する約1kW。一日中安定した出力で発電ができます。ナノ水力発電システムで発電された電力はパワーコンデショナ(インバータ)を通じてバッテリに蓄電されるほか、100Vと200Vに変換され、農作業用の電動トラックや作物の集荷配送用電気商用車への充電も可能です。各種のポータブル蓄電池を通じて電気草刈り機などの電動作業機や農薬散布ドローンの電源として利用できるほか、近年、獣害対策として注目を集める鳥獣用防護柵やビニールハウスにおける照明用の電源としても使用できます。農業用水という未利用なエネルギーの地産地消で農業の電動化を進める取り組みとして注目されています。

開発されたナノ水力発電システム

都心部のヒートアイランド現象の緩和や豪雨時の冠水対策に有効
廃棄瓦を活用した緑化コンクリートを研究開発

白山麓キャンパス内には廃棄瓦を有効利用した緑化コンクリートが敷設され、産学連携で実証研究が行われています。廃棄瓦は最終処分場逼迫の原因の一つとなっていました。一方で瓦は多孔質な物質で「吸水」「保水」「保温」といった機能を有するため、骨材として利用することで植生可能な緑化コンクリートが実現できます。都心部のヒートアイランド現象を抑える緑化事業や緑化舗装での活用が期待されるほか、豪雨時の冠水対策としても注目されています。

強固なコンクリート下地の芝生(イメージ)

白山麓キャンパス内に研究用ドームハウスを設置
屋根の雪下ろしや除雪不要な居住地域の創造に向けて検証実験

白山麓キャンパス内に令和元年12月、実験用ドームハウスが設置されました。ドームハウスは低発泡倍率の発泡材を利用した構造物で、軽量で断熱性に富み、新建築の分野での期待が大きい構造です。ドームの特性から雪は積もらず滑り落ち、またドームの周りには消雪水路も設置されているので除雪も不要です。雪国では高齢過疎化による労働力の低下に伴い、屋根の雪下ろしや下ろした雪の撤去といった除排雪作業の負荷が大きく、多くの問題を抱えています。屋根の雪下ろしや除雪不要なドームハウスを使用することで安心安全な居住地域の創造が可能となり、またドームハウスを使った植物工場で経済活動を行うことで、地方創生につながるものとして期待されています。

白山麓キャンパスに設置された研究用ドームハウス

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