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宮崎慶輔准教授の国際誌での論文が「Dyers' Company Research Medal」を受賞。ポリプロピレン繊維の染色時の染まりやすさ、生地の染色の丈夫さを明らかに
プロジェクトデザイン基礎教育課程の宮崎慶輔准教授(専門:工学教育、染色化学、染色加工、錯体化学、構造化学)と福井大学の共同研究で執筆し、国際誌に掲載された論文が、Worshipful Company of Dyers(略称:Dyers' Company)の「Dyers' Company Research Medal」を受賞しました。筆頭著者の宮崎准教授は6月にロンドン中心部にある歴史あるFishmongers' Hallで行われるメダル授与式に出席予定です。
掲載論文誌:『Coloration Technology』Volume138, Issue5
論文名:The relationship between the substitution position of hydrophobic groups on near-magenta anthraquinone dyestuffs and the dyeing performance for polypropylene fabric dyed in supercritical carbon dioxide
著者:宮崎慶輔(金沢工業大学)、平田豊章、廣垣和正、田畑功、堀照夫(福井大学)
論文掲載URL:
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cote.12610
「Dyers' Company Research Medal」は、Society of Dyers & Colourists(略称:SDC、Dyers' Companyの奨励により1884年に設立された学協会)がWileyと共同で発行する論文誌『Coloration Technology』に過去12ヶ月間に掲載された論文の中から、最も価値のある研究論文と判断されるものに毎年授与されるものです。Dyers' Companyは、1471年に英国王室から勅許を受けた12世紀から続く染色家ギルドを起源とし、現在はSDCやLees大学などと提携して染色の技術開発と色彩分野の教育支援など多くの慈善事業を行っている団体です。「Research Medal」は、染色分野におけるさまざまな論文に授与されてきた栄誉ある賞となり、その起源は1908年まで遡ることができます。
宮崎准教授は論文で、超臨界二酸化炭素を媒体としてポリプロピレン繊維(※)を染色(超臨界流体染色)する際に、使用する染料分子上の疎水性置換基の結合位置が、染色能(染まりやすさ)と染色堅牢度(染色された生地の染色の丈夫さ)に与える影響を明らかにしました。
宮崎准教授らの研究チームは、過去に超臨界流体染色でも十分な堅牢度を持ったポリプロピレン繊維用染料の開発に成功をしています(2020年8月発表)。物質に高い圧力をかけながら高温にすると、気体?液体?固体と並ぶ物質の状態である超臨界流体になります。染料が溶解した超臨界流体を生地に通すことで染色を行う技術が超臨界流体染色です。超臨界流体染色では、染料の事前溶解や染布の後洗浄が不要となるだけでなく、水を使用しないため乾燥の工程が不要となります。淡水資源の有効活用の観点から、環境問題に敏感なアパレル企業や欧米のスポーツウェアブランドなどからは環境に配慮した染色方法の一つとして超臨界流体染色技術に注目が集まっています。
今回の研究成果は、ポリプロプレン繊維を超臨界流体染色する際に使用する染料の分子構造の最適化に関するもので、染色が困難な素材をよりサスティナブルに着色する手段の実用化?活用に貢献するものとなります。
※ポリプロプレン繊維:ポリプロピレン樹脂は、石油精製時の排ガスを原料としているため非常に廉価です。この樹脂を使用したポリプロピレン繊維は軽量で速乾性があり、耐薬品性、耐擦過性、耐屈曲性、帯電防止性など優れた特性を持つ繊維です。1960年代の出現当時は「夢の繊維」と称され世界中の話題となりましたが、染色が困難などの理由から衣料品としての用途は広がりませんでした。繊維を作る際に有色顔料を樹脂に練り込むなどしてあらかじめ色付けすることは可能ではありましたが、色を決めるタイミングと色数に制約があるため、有色のポリプロピレン繊維の活用は非常に限定的でした。
【関連リンク】
Dyers’ Company Research Medal
Award Winners Virtual Issue 2022