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【EMS学生奨励賞受賞】
大学院電気電子工学専攻1年の新保さん。ハワイでの国際会議IWN2024では英語での口頭講演を予定

EMS学生奨励賞を受賞した新保 樹さん

金沢工業大学 大学院工学研究科 電気電子工学専攻 博士前期課程1年の新保 樹さんが、10月2日(水)から4日(金)まで奈良県橿原市で開催された「第43回電子材料シンポジウム(EMS-43)」においてEMS学生奨励賞を受賞しました。

電子材料シンポジウム(EMS)は、電子材料を研究する全国の若手の研究者たちが各自の研究内容をショートプレゼンテーションおよびポスター発表で発表を行い、議論する場として、毎年開催されている研究会です。

令和6年度(第43回)から、優秀な発表や討論、質疑応答などの印象に残る活動を行った参加学生に対して「EMS学生奨励賞」が授与されることになり、128名の参加学生の中から新保さんが受賞しました(受賞者はあわせて10名)。

新保さんは学部3年次に難関資格である第2種電気主任技術者国家試験(電験2種)に合格。さらにTOEIC® Listening & Reading Testは870点というスコアを持ちます。
高い専門基礎力と英語力を養い、山口敦史研究室(専門:光物性、価電子帯、窒化物半導体、半導体レーザ)では最先端の半導体の研究に注力し、このたびの受賞につながりました。

なお新保さんは、11月2日から8日までハワイで開催される国際会議「12th International Workshop on Nitride Semiconductors (IWN2024)」に口頭講演で採択されており、これまでの研究成果を英語で発表します。

【新保さんの論文題目(論文は英語)】

Detailed analysis of temperature dependence of time-resolved photoluminescence spectra in an InGaN single quantum well
(InGaN単一量子井戸における時間分解フォトルミネセンススペクトルの温度依存性)

著者:

I. Shimbo*, H. Tosa*, A. A. Yamaguchi*, K. Iwamitsu**, and S. Tomiya**
*Kanazawa Institute of Technology, **Nara Institute of Science and Technology
新保樹、土佐宏樹、山口敦史(金沢工業大学)、岩満一功、冨谷茂隆(奈良先端科学技術大学院大学)

新保さんが発表で使用したポスター

【新保さんの研究の概要】

窒化物半導体は、原理的に深紫外から赤外までの幅広い波長域の発光デバイスを実現できる可能性があり、 この魅力的な特性から研究開発が活発に行われている。しかしながら窒化物半導体のデバイスシミュレータは市販されているものの、 Si (シリコン)半導体素子におけるシミュレータのような精度でのシミュレーションはまだまだ不可能な状態である。これは窒化物半導体内部でのキャリアダイナミクス(※1)の理解が不十分であるためであると考えられ、その解明が強く求められている。

フォトルミネセンス<br>(光をエネルギー源として物質が発光する現象)

本研究では InGaN(窒化インジウムガリウム)単一量子井戸(SQW)エピ膜を用いて、そのフォトルミネセンス(※2)(Photoluminescence、以下「PL」という)寿命の波長依存性を調べることで、 InGaN量子井戸内のキャリアダイナミクスを考察した。使用した InGaN単一量子井戸エピ膜は、Sapphire基盤とInGaN量子井戸の間に厚い InGaN 下地層(Underlayer、以下「UL」という )が挿入された構造をしている。 UL 付き量子井戸の欠陥密度は、 UL なし量子井戸と比べて小さいことが知られており[1]、キャリアダイナミクスに対する欠陥による影響を最小限に抑えることができ、真のキャリアダイナミクスを観測できると考えられる。このことから、各発光波長のPL寿命を解析することによりInGaN単一量子井戸内のキャリアダイナミクスの理論モデルを考察できると考えた。

本研究で用いたサンプルのPLピーク波長は室温で 441 nm である。励起光にはピコ秒パルスレーザの第二高調波(385 nm)を用い、InGaN単一量子井戸のみを選択的に励起した。PLは 55 cm 分光器で分光し、マイクロチャンネルプレート光電子増倍管で検出し、波長1 nm毎にPL減衰曲線を時間相関単一光子計数法により測定することで、時間分解PLスペクトルを得た。サンプルはクライオスタットによってその温度が制御され、2 Kから300 Kまで50 K毎に時間分解PLスペクトルを測定した。その後、測定した減衰曲線を用いて、PL寿命の波長依存性(以下、サンプルのPLスペクトル全体におけるPL寿命の波長依存性に対し、「PL寿命スペクトル」と呼ぶ)を解析した。


実験で使用されたピコ秒パルスレーザ (金沢工業大学光電相互変換デバイスシステム研究開発センター)

2 Kから300 Kまで 50 K 毎に温度を変化させたときのPL寿命スペクトルを見ると、低温ではPL寿命スペクトルにノコギリ状の周期的な振動が見られた。これはLO(縦型光学)フォノンレプリカによる影響であると考えられる[2]。LOフォノンレプリカは、キャリアが輻射再結合(※3)する際に、フォトン(光子)と同時にフォノン(格子振動)を放出する現象である。これによって、フォノンのエネルギー分、フォトンのエネルギーが減少するため、メイン発光ピークにおけるPL寿命の波長依存性が、LOフォノンレプリカに対応して長波長側へ周期的に出現したと考えられる。そして、メイン発光ピークにおけるPL寿命の波長依存性については、「ピエゾ電界によるキャリアの位置空間上波動関数の重なりの減少[3]」、「量子ディスクによる輻射再結合寿命の波長依存性[4]」および、「励起子のバンド内エネルギー緩和[5]」によるものであると考えられる。一方、温度が上昇した場合にPL寿命スペクトルが平坦になる原因としては、「非輻射再結合寿命の増加」もしくは、「メイン発光ピークの半値全幅(FWHM)の増加による、各発光ピークでのPL寿命の波長依存性の重なりの増加」が考えられる。

これらの解釈は全く違うものであるので、実際のInGaN量子井戸ではどちらが効いているのかを解明することは非常に重要である。また、この研究を進めることで、 InGaN 量子井戸におけるキャリアダイナミクスの一端を解明し、デバイスシミュレータへ知見を活かせる可能性がある 。

(※1) キャリアダイナミクス

半導体内の電荷(キャリア)の移動方法や、その動きに影響を与える現象。半導体のキャリアダイナミクスを理解することで、より高性能なデバイスの開発につながることが期待されている。

(※2) フォトルミネセンス

光をエネルギー源として物質が発光する現象。フォトルミネセンス測定は、非破壊非接触で可能なため、光半導体素子の開発段階におけるテストに有効である。

(※3) 輻射再結合

キャリアが発光を伴って再結合する現象。市販されているLEDはこの現象を基に発光しているが、その発光までの詳しい過程(キャリアダイナミクス)が未だ解明されていない。

参考文献

[1] C. Haller et al., Appl. Phys. Lett. 113, 111106 (2018).

[2] D. M. Graham et al., J. Appl. Phys. 97, 103508 (2005).

[3] T. Takeuchi et al., Jpn. J. Appl. Phys. 36, L382 (1995).

[4] M. Sugawara, Phys. Rev. B 51, 10743 (1995).

[5] C. Gourdon et al., Phys. Stat. Sol. (B) 153, 641 (1989).

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