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アグネス吉井ワークショップ「からだで感じる建築のかたち」開催レポート
デザインアートラボ/五十嵐威暢アーカイブは、金沢工業大学が持つ文化資源の利活用として、アーティストによるワークショップを企画します。その第一回として、11月23日(土?祝)にアグネス吉井による学内向けワークショップ「からだで感じる建築のかたち」を開催しました。アグネス吉井は、都市空間を舞台として、街で発見したかたちや動きを起点とした身体表現を行う2人組ダンス?ユニット。今回のワークショップでは、専攻も学年もさまざまな総勢12名の学生が、アグネス吉井のお二人によるファシリテーションのもとで貴重な近代建築作品である扇が丘キャンパス北校地を散策しました。
午前の部
午前の部は、アグネス吉井の自己紹介を兼ねたレクチャーとウォーミングアップ。一見シュールに見えるお二人のダンス(全く動かないことも???!)のコンセプトをうかがいました。「ダンス」と聞くとブレイクダンスやバレエなどを想像しますが、お二人の表現は、既存の形式に囚われない身体表現としての「コンテンポラリー?ダンス」のなかに位置付けられます。自らの内なる感情を爆発させるようなものがある一方で、アグネス吉井は自身の表現を「その逆。自分の存在を見せるのではなく、周辺の場所のかたちやうごきを引き立たせることを目指している」と言います。そんな彼らが今回のワークショップで参加者に教えてくれたのが「沿う」というメソッド。彼らはじっと、そこにある木や車止めなどに身体を沿わせることで、もののかたちを強調します。
レクチャーのあとは、外に出る前のウォーミングアップ。五十嵐アーカイブとライブラリーセンターのブラウジングゾーンを舞台に身体を動かします。展示室に寝転ぶたくさんの人。なんとも不思議な光景ですが、実際やってみるとかなり面白い。床や壁に使われている木の質感やにおい、風の流れ、展示什器のかたちなど、普段立ちながら、ましてや作品に注目しているなかでは気付くことのなかった空間自体の特徴がまざまざと伝わってきます。なかには、大きな板に空いた穴から影が落ちる五十嵐氏の彫刻作品《こもれび》のふもとに寝転がり、「本当に木陰にいるみたい。いまにも寝てしまいそう」と作品に対する新たな感想を抱く学生も。
五十嵐アーカイブとブラウジングゾーンでは、それぞれ好きな場所でものに沿うさまを動画に記録しました。撮影した動画をみんなで見ていると、身体の大きさの違いや、同じ場所でもどう沿うのか、それぞれの工夫も見えてきます。このころにはもう会場は和気あいあい。お昼休憩を挟んで午後の部に続きます。
午後の部
午後からは舞台を扇が丘キャンパス北校地の屋外と1号館へと移しました。私たちが普段過ごしているこの扇が丘キャンパス北校地は、著名な建築家である大谷幸夫氏の設計です。1960年代末に作られた1号館は2019年にDOCOMOMO Japanによる「日本におけるモダン?ムーブメントの建築226選」に認定され、ライブラリーセンターが完成した1982年にはキャンパス全体が日本建築学会作品賞を受賞するなど歴史的にも重要な建築群です。金沢工業大学が持つ貴重な文化資源のひとつであるキャンパスとの出会い直しを試みます。
このキャンパス、いたるところに不思議な空間や模様、オブジェがあります。たとえば、雨を受ける大きなお皿(?)を見つけてはそれを囲む段差をぐるっと歩いてみる。すると、思っていたより傾斜がついているなど、実はそれぞれ少しずつかたちが違っていたことに気づきます。左足は芝生の上、右足はコンクリートの上を歩いて地面の素材の違いを感じてみたり、側溝のなかに降りて視線の高さを変えてみたり、普段とは全く違った切り口でキャンパスを歩きつつ1号館へ向かいます。
そして1号館に着くと早速、吹き受け空間に配された階段の手すりに両腕を沿わしながら中二階へ。上がった先では45度振られている特徴的な柱にかかとをピタッと合わせます。その角度や大きさを確かめようと柱を抱え込むと「あれっ、かかとが飛び出てしまう???」。不安定なからだのバランスは、階段と柱の位置関係を私たちに意識をさせます。
最後には、幸い雨も止み、広場で動画を撮影することができました。今回のワークショップの集大成として、職員も含め気合いが入ります。木の曲線を強調するために腕を沿わす人、枝を支える柱と自分の身長がぴったり同じであることに気づいた人などなど。特に、広場中央の渦型のオブジェは魅力的に感じる人も多く、各々の方法でその曲線を強調していました。
「場所の特徴を引き立てるためにからだを使う」というアグネス吉井の方法論を学び、からだ全体で場所と向き合ってみると、視覚だけでは認識できない微妙な形状や質感など、見過ごしていた場所の面白さが浮かび上がってきました。最後には、参加した学生から「小学生のころに戻ったみたい」といった楽しい感想も聞こえてきました。たしかに、横断歩道の白しか踏まないと勝手にルールを決めていたように、あるいは、タイルの目地に沿ってちょこちょこ歩いたように、子どものころは街全体が遊び場でした。大人になったいま改めて場所のかたちや動きに意識を向けてみると、想像以上に街には不思議で面白いものが溢れていることに気づきます。そしてそれが、それぞれの街の文化や歴史に由来することも往々にしてあるでしょう。キャンパスを舞台とした今回のワークショップが、専門的な知識や経験を超えて、普段の生活全体の背後に潜むものごとの豊かさを感じるきっかけになっていれば幸いです。
アグネス吉井による街歩き×ダンスの活動「もやよし」の野々市編も公開されています。大学付近での散歩のご参考にしてみては。
https://aguyoshi.net/moyayoshi/202411/5189/
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