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【スマートファクトリーに向けた産学共同研究の成果】
別川製作所で情報工学科 中沢実研究室が発表。工場の実環境でのデモも実施
金沢工業大学 情報工学科 中沢 実研究室が株式会社別川製作所と進める産学共同研究の成果発表会が2月20日(木)、別川製作所(石川県白山市)で行われました。
中沢実研究室と別川製作所は2024年度、スマートファクトリー実現に向けた共同研究を進めています。
当発表会には別川製作所から川島 直之 代表取締役社長と高筒 正義 企画開発室室長が出席。情報工学科4年の奥瀬 皓也さん、大野 颯太さん、原田 峻希さん、市村 凌久さんの4名が口頭発表を行いました。また発表会終了後には、工場の実環境なかでのデモンストレーションも行われました。
【情報工学科4年 奥瀬 皓也さんの発表の概要】
奥瀬さんは「UWB通信を用いたロボットにおける自己位置推定の提案」について発表しました。
近年、AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)への需要が高まっています。工場のDX化が進み、様々な機器が工場内で通信を行うほか、ロボットの自律走行や遠隔操縦等も通信によって成り立っています。
工場内のIoTや機器は通信規格としてWi-Fiが想定されていますが、Bluetooth通信と混線しやすいことや、広い工場の場合はWi-Fiのアクセスポイントが複数台必要となり、ロボット等の動的な物体への自動割り当て等の技術が必要となってきます。さらに自動ロボットは一般的にSLAM(1)を行い、環境認識を行いますが、環境地図の作成にはロボットを操縦する人間が必要となるため、規模の大きい工場や走行可能エリアが変化しやすい現場での導入には課題が多いのが現状です。
そこで奥瀬さんは、混線等に強いUWB通信(2)に着目。電波を用いた測位を用いて、3個のUWBタグを移動するロボットに設置し,1個のUWBアンカー(固定機)によるロボットの自己位置推定を提案。ROS2(Robot Operating System2)と当提案手法を組み合わせることで、ロボット導入の障害となるSLAMの自動化を目指しました。そして実験により、測位や自律走行にUWB通信を利用することで、人間が環境地図を作成する労力を軽減できることを実証しました。
(1)SLAM:“Simultaneous Localization and Mapping”の略語。自己位置推定+環境地図作成を同時に実行し,移動体の自律走行を実現する技術
(2)UWB通信:Ultra-Wide Bandの略。超広帯域の周波数帯域幅を利用する無線通信のこと
【情報工学科4年 大野 颯太さんの発表の概要】
大野さんは「室内図面を用いた経路計画グラフ作成手法の提案」について発表しました。
従来の搬送ロボットは環境地図の作成にとても大きなコストがかかっていました。
建物には必ず図面があります。そこで大野さんは、図面からある程度の情報を得て、それを用いることで経路計画に役立てることはできないか、そして環境地図を用いない経路計画を行うことはできないか、と考えました。
既存するSLAM技術は、未知環境に対して移動行いながらマッピングを行うことは可能ですが、移動先は人間が指定しなければならないことが課題となっていました。
図面を入力として与えることで室内をくまなく回る経路計画が自動化できるようにするため、大野さんは、図面から経路地点をノードとしたグラフを算出し、そのグラフに対する最短経路問題として解決策を検討しました。
その上で大野さんは、パターン違いの図面におけるロバスト性(外乱や設計誤差などの不確定な変動に対して、システムや機械が一定の性能を維持する能力)を検証する実験を実施。設計当初から想定している図面が特に有効性があることを実証しました。
今後の展望として、Pythonにおける座標情報に基づく単純なグラフ表現ではなく、 画像の特徴量抽出を行い、図面情報から、走行可能な通路、不可能な箇所などの情報を取得し、それらを用いて通路やしきい値の自動設定などが行えるとより汎用的でロバスト性の高いものができるとして発表を締めくくりました。
【情報工学科4年 原田 峻希さんの発表の概要】
原田さんは「工場内ロボットの自己位置推定と障害物回避の提案」をテーマに発表しました。
近年、センサーを用いた高精度な自己位置推定は様々な分野で注目されています。自動運転技術の発達とともに、工場内で使われる運搬ロボットの市場規模も年々増加してきており、リアルタイムでの正確な自己位置推定が求められています。
工場内でロボットは巡回や資材運搬などの役割を担っていますが、複雑な工場環境では、動的に変化する障害物やさまざまな状況に対応するため、ロボットの高精度な自己位置推定と紹介物回避が求められています。
現在のAMR(自律走行搬送ロボット)では、LiDAR(Light Detection and Ranging)と呼ばれる、レーザー光を照射して対象物までの距離や形状を計測する技術をベースとした自己位置推定、障害物回避システムが広く利用されていますが、LiDAR単体では透明物体の検知精度が低く、性能に限界があることが課題となっています。
そこで原田さんは、UWB通信とLiDAR、超音波センサを統合することで高精度な環境認識を実現。動的に変化する工場内において、リアルタイムで正確な測位と障害物回避を行えるセンサフュージョンシステムの構築を目指しました。
具体的には、
●ロボットはUBWタグ3つとUWBアンカーを用いた三角測量で高精度な自己位置推定をリアルタイムで実施。
●障害物回避および環境マッピングのため、ロボット前方にLiDARを搭載。
●超音波センサーをロボットの前方と前方下部に搭載。超音波センサーが透明物体を検知することでLiDARの弱みを補完するとともに、またLiDARの設置位置の関係で検知することができない地面付近に対する障害物検知も行えるようにしました。
そして工場内の実環境で実験を実施。ロボットは工場内の溝に置かれたグレーチング(格子状の溝蓋)を回避し、溝に置かれたスロープを認識して自律的に通過することができました。
【情報工学科4年 市村 凌久さんの発表の概要】
市村さんは「UWBの位置推定によるAR描画情報の取得の自動化」について発表しました。
産業用AR(拡張現実)は生産業、製造業でDXの一環として注目されていますが、ビジョンベースAR(カメラで取得したARマーカーを解析して、ARを表示させる技術)は、同一形状の物体の読み取りに手間がかかる他、読み込みまで静止する必要がある、タブレット作業では片手を塞ぐなどの課題があります。
そこで市村さんは、
?マーカー(バーコード)に依存しない同一形状の物体認識
?情報を取得したい物体の素早い識別
?ハンズフリーで情報取得
という3点を満たす「UWB通信とARグラスを用いた高精度な位置測定によるARシステム」を提案しました。
アンカー(受信機)とタグ(送信機)間のUWB通信により移動距離を測り、計算した移動平均をBLE(Bluetooth Low Energy)通信でARアプリに送信。ARアプリは環境地図上の利用者の座標を推定します。またARグラスに搭載されたIMU(3)により取得された視線ベクトルと利用者の推定座標から、視線の先に機械があるかどうか判定します。判定された機械の情報はAPIサーバーにリクエストされ、受け取った情報をARグラス上に描画されます。
その上で、中沢研究室のラボ内で検証実験を行った結果、1mサイズの機械の認識には十分な精度があることが実証できました、
(3)IMU:3次元の慣性運動を検出する装置。速度センサと角速度センサで位置や向き、姿勢、加速度、角速度などを計測する
【工場内の実環境でのデモも実施】
【別川製作所について】
1952年の創業以来、配電盤メーカーとして、配電?制御?分電?監視盤を製造。その後、事業領域を食品プラントなどのFA、水?ごみ処理環境衛生プラントの監視制御、電力?空調の省エネ監視など、産業?環境システムの分野に拡大する。近年はKNX(住宅やビルのエネルギー機器を制御できる国際規格)やIoT、AIなど新しい事業分野への取り組みを加速させている。
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