専任教員インタビュー集

三谷 宏治
Koji MITANI
教授/MBA
戦略思考を広めたパイオニアは
真に役立つMBAを追い求め
学生たちに「2つのルール」を示す
三谷宏治

学生は私と対等。「先生」とは呼ばせない

ボストン コンサルティング グループ(BCG)とアクセンチュアで経営コンサルタントとして活躍し、その後は長きにわたってMBA教育に携わってきたのが三谷宏治教授です。日本を代表する「戦略思考」の専門家であり、三谷教授が独自に生み出した「重要思考」や「B3Cフレームワーク」といった概念は広く知られてきました。著書は30タイトルを超え、ビジネス書大賞2014の大賞に輝いた『経営戦略全史』や『ビジネスモデル全史』など多方面で実績を残しています。

そんな三谷教授には、講義やゼミで学生に課している「2つのルール」があります。1つ目 は「“先生”と呼んではいけない」ということ。「最初の講義で必ず学生に伝えていますね。みんな私と対等であり、先生と呼ぶのは逃げなんだ、と。なぜならビジネスはチームで動きますから、学生はここで学んだことを同じくチームのメンバーに教えられるようにならなければ意味がありません。教わる立場から教える立場になってほしいのです。そう考えたときに“先生”という言葉はふさわしくないですよね。立場を分けますから」

こうした考えには、コンサルタント時代の経験が関係しているのかもしれません。新卒でBCGに入社したとき、自分たちが受ける社内研修プログラムをみずから考え始めました。なぜならBCGはそれまで中途採用が基本で、新卒採用を開始したのは前年から。そのため新人教育の研修プログラムがほぼなかったのです。

「何を学ぶ必要があるのか同期と話し合いながら研修プログラムを考え、みなで分厚い経済学書を輪講したり、先輩コンサルタントに講師を頼んだり。そして翌年からは後輩にそれを教える側に回りました」

アクセンチュアに移る際は「戦略グループのトレーニング責任者にすること」を条件に入社し、およそ36科目の研修プログラムを作りました。そうして現在は大学院の教壇に立っています。つまり三谷教授も、教わる立場から教える立場に移っていった一人なのです。

独自概念の「重要思考」、ルーツは“SF好き”にあった?

三谷教授が学生に課しているルール、その2つ目は「ひとつある、の禁止」です。たとえば「成功要因として〇〇ということがひとつあると思います」といった回答はNG。「いくつかの中のひとつではなく『一番ダイジなものを挙げなさい』といつも言ってます」。

ここにつながるのが、三谷教授の「重要思考」という独自概念。重要思考とは、もっとも重要なひとつのものを突き詰める考え方です。一例として、企業のコストダウン策を議論する際に、「競合他社に比べて広告宣伝費が半分だ」としても、広告宣伝費が全コストの1%しか占めないのであれば、インパクトは小さく意味がありません。まずは全コストで一番大きい比率を占めるもの(例えば購買費)から議論する。そのような思考法を養います。

こういった話を聞くと、三谷教授の厳しい人柄を想像するかもしれません。しかし実際は穏やかなトーンで、話す内容はにこやかな雑談が半分以上。たとえば、今の思考法につながる話として、こんな子ども時代のエピソードも出てきました。

「小さい頃からSFが好きで、毎日一冊読んでいた時期がありました。私の99%はSFで出来ているんです(笑)。中学生のとき『こんなに読んでも絶対将来、役に立たない』と思っていましたが、今の私の発想力を支えているのはSFなんです」

なぜそうかといえば、重要なひとつのものを突き詰める三谷教授のスタイル、つまりモノゴトの本質を見極めることこそSFの特質だからです。

「もっとも極端な設定を作ることでこの世の本質を突き詰められるのがSFの醍醐味です。たとえばヒトの『コミュニケーション』の本質を追究しようとしたら、宇宙人との『ファーストコンタクト』が題材になります。同じように『人間知性』を本質的に問い詰めようとしたら、『機械知(AI)』が題材になる。それらを大量に読んだことが今の自分につながっています」

みんなくたくたになりながら、リアルなスキルを習得する

教えることが大好きで、基礎のないヒト(初学者)に基礎を授けるのが「一番チャレンジングで面白い」と話す三谷教授。それほど教育熱心な人物がこの大学院に来たのは、日本中のどこにもないMBAを作れる場所だと感じたからでした。実際に、2009年からはMBAカリキュラムの構築を担ってきました。

「知識だけ学んで仕事に役立たないMBAではなく、本当に使えるスキルを手に入れられる場所にしたいんです。だからこそ、カリキュラムも基礎?応用?実践の繰り返し型になっていますし、多くの科目が『理論を一度勉強したら終わり』にせず、最後は実地演習を行います。たとえば私のCRMの講義なら、最終日は受講生による発表会です。学生たちが勤務する会社のデータ、それが難しければ他のリアルなデータをもとに、講義で学んだ手法を使って一人ずつ改革案を発表?議論するのです。みんなくたくたになりますが、これこそがKIT虎ノ門の価値でしょう」

優しい口調と朗らかな表情は変わらず、しかし発する言葉を文字にしてみると、この領域の先駆者らしいこだわりと厳しさにあふれている三谷教授。学生たちに伝える「2つのルール」も、そんな思考の表れといえます。

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